機器への影響

ここでは、電灯線インターネットが電気機器に与える影響について述べます。


電灯線インターネットに用いられる高周波電力は?

電波法施行規則 46条の2の3と44条に 電灯線インターネットに関する記述があります。それによると、搬送波出力の制限は「10キロヘルツ幅あたり10ミリワット」かつ「最大10ワット」です。業界内では -50dBm/Hz つまり 10キロヘルツあたり 0.1ミリワット程度の電力を用いる方針のようで、4〜21MHzまで使用した場合は 170ミリワットになります(資料:PLC利用スペクトラムの例:JPEG 150kB)。

ちなみに、拡散範囲の上限を超えた周波数についても高周波電圧が認められており、5MHzまで 56dBμV(0.7ミリボルト)、5MHz〜30MHzまでは60dBμV(1ミリボルト)とのことです。要は VCCI B クラスなんですが、このノイズ源が家の至る所にあると流石に影響が出そうに思います。


アマチュア無線局からの影響は?

私もアマチュア無線家ですので、「アマチュア局からの影響」について論じなければ片手落ちですね。

アマチュア局が許可されている電力のうち 電灯線インターネットが用いる 2〜30MHzの部分だけ抜粋すると 以下のようになります(注:移動する局は50ワットに制限されます)。

資格28MHz以下の出力制限
第一級アマチュア無線技師1000ワット
第二級アマチュア無線技師200ワット
第三級アマチュア無線技師50ワット
第四級アマチュア無線技師10ワット

電灯線インターネットが用いるより遙かに大きな電力です。アンテナの指向性を用いて特定方向に電力を集中させれば 実質的にはこれより大きな電力になり得ます。

電磁波発生源がダイポールアンテナ(1/4波長の線を左右に張ったアンテナ)であるとき、そこから受ける電磁界の強度は以下の式で近似的に(アンテナの長さによる距離の差を考えていません)求められます。距離の1乗・2乗・3乗に反比例する成分があることがお解り頂けると思います。

7×√(P)×(1/r+λ/6.3r2−λ2/40r3)[V/m]

これを EasyGraphというソフトに代入し、グラフを書かせてみました。縦軸の単位は10ボルト毎メートル、横軸の単位は[メートル]です(八木アンテナ等の利得は全て出力に加えました)。

実際には、アンテナの上下方向の利得のために 1/3〜1/10になります。

これに対し、電灯線インターネットがもたらす電界を示します。ここでの距離は電灯線インターネットモデムからの距離ではなく、配線からの距離です。またこちらはダイポールでもないので、線長を20cmに低減させています。

距離の3乗に反比例する成分が 10〜20cm(周波数によって変化)以内で支配的になり、アマチュア無線家からの電波より強い影響を与えうることがお解り頂けるでしょうか。

電力線は平行二線なので理論上は高周波が漏れないはずですが、なかなかそうも行かないようです。磯野さんの実験をご覧下さい。結果を見る限り、ほとんどアンテナですね...


また、PHS・携帯電話の例も挙げておきます。

これにより、一部で騒がれている「アマチュア無線局の電波が人体に影響を及ぼす」という噂話も 殆ど煽動者によるでっちあげであることがおわかり頂けると思います。アンテナから距離を置く・送信機や給電線を金属で覆って電波が漏れないようにするといった対策を無線局が講じる必要はありますし、必要のない電力を出さない等の配慮も必要ですが、そういった対策を行っている限りは これらの無線設備が近隣の人に与える影響は 非常に小さいと考えられます。

時々「アンプを焚くと頭がクラクラする」とか「無線やってるので女の子しか生まれない」などと放言しているアマチュア無線家も居ますが、それは過大な出力や送信設備の不具合のため送信設備から漏れた電磁波を 間近で浴びているからだと考えられます。つまりは送信電力を増すことによって生じるリスクを放置している危険な行為であり、間違っても自慢げに吹聴するような話ではありません
もちろん、この場合も隣家には影響ありません。3乗に比例する成分は送信機のごく近くでしか現れないからです。


日本の特殊事情

心あるアマチュア無線局は「都会で1000ワット出せば必ず近隣に電波障害が出ると疑え」と申しております。1500ワットの無線機の車載が合法である米国と比べて なぜこれほどの差があるのでしょうか。

その原因の一つとして、日本には耐力(注1)に関する明確な規制が無いことが挙げられます。実際、一部の電気機器には 電波障害対策用の回路はあるのに部品が付いていないというお粗末極まりない例もあるそうです(参考文献:「電波障害 その対策と実情」)。近年の機器は電波障害への対策がそれなりに講じられているとは思いますが、電灯線インターネットを導入する家庭全てが最新の機器を備えていることを前提に出来るはずもありません。

注:耐力
ノイズが機器に入ってきても動作に影響がないように対策されているかどうかを指します。英語圏では Immunity (免疫)という単語が使われています。

無線局が電磁障害を与えた場合、それがテレビやラジオ等の受信機であれば、電波法56条により 電波を出すのを止めて対策をしなければなりません。その他の機器であっても、道義的には対策を講じる必要があります。実際にも対策を要した例、対策が遅れたために隣人間関係がこじれた例、関係ない局に嫌疑が掛けられた例 などがいっぱいあります。

電灯線インターネットは大丈夫なんですか?

ちなみに、電灯線インターネット装置は無線局ではなく、電子レンジなどと同様の「電磁波利用装置」に属するため、テレビやラジオに対してさえも停波や対策義務がありません。とはいっても、配線全てが電磁波発生源になる以上、対策義務無しとして逃げられる問題ではないと思いますが...


電話など既存回線への影響

電話線は電灯線と同様に家の中を張り巡らされていますので、電灯線インターネットによる漏洩電波の影響を強く受けると考えられます。これはアマチュア無線局の電波についても同様です。

もちろん、電話には高周波を受信する機能は有りません。しかし、電話線自体が高周波を拾いやすいにも関わらず、高周波の混入に対して恐ろしく無防備な電話が蔓延しているのが現状です。どの程度無防備かは磯野さんが「NTTとの闘いの歴史」に纏めています。

補足:ノーマルモードとコモンモードとの違いについて
非常に簡単に言うと、二本の線が行きと帰りに分かれているか、それとも一本の線(アンテナ)と見なされているかの違いです。
名称ノーマルモードコモンモード
電流の向き→→→→→
←←←←←
(逆方向)
→→→→→
→→→→→
(同じ方向)
対策方法ローパスフィルタコイルに巻いて高周波を断絶

家電への影響

近年の家電はマイコンによって制御されており、電源部から侵入した高周波がそのマイコンを誤動作させるかもしれません。確率は低いと思いますが、実際にアマチュア局からの電波障害で電気湯沸かし器が誤動作するという事例もありますので 油断は出来ません。防犯装置のように屋内に配線が張り巡らされているものは特に電波を拾いやすいので要注意です。

情報家電ネットワークの弊害もまた無視できません。


テレビ・ラジオ・オーディオへの影響

非常に影響が大きいと思われます。アマチュア局や違法局からの電波障害でテレビの画面に縞が入ったりラジオやコンポから雑音が聞こえるといった例は数多くあります。

テレビの周波数帯域はおよそ4.5MHzであることから、テレビやVTRの映像・音声に影響が出ると思われます。AMラジオは周波数が異なるため あまり影響はないでしょう。FMラジオは中間周波数への障害が予想されますが、元々ノイズに強い変調方式なのでそう問題にならないと思われます。

ただし、近年 オーディオアンプに使われるトランジスタは音を良くするために非常に高い周波数まで(10数MHzまで)増幅する性質を持っています。特に AC電源を必要とするオーディオ機器は高周波対策がきっちりしていないと「ブーン」という音に悩まされると思います。これはACから電源を取る音声増幅機器全て(テレビ・ラジオ・ラジカセ・その他)に当てはまります。


測定器


医療機器

まさか病院に電灯線インターネットのような危険なシロモノは導入されないと思いますが、在宅介護などで一般家庭にも医療機器が導入されることはあります。勿論生命に関わる機器ですから 誤動作しないよう十分な耐性や品質を持っているとは思いますが、AC電源にかなりのレベルの高周波が乗っている事態まで想定されて作られているでしょうか。

また、少し前に携帯電話によるペースメーカーへの影響が問題となりましたが、電気毛布等の体に密着する電熱機器を使用していると、機器から漏れる電磁波によって同様の影響が懸念されます。

携帯・PHSが医用電気機器に及ぼす影響について書かれている頁があります(thanks 三部さん)。日本には耐力の標準的な規格が無いため欧州の例を取ると、26〜3000MHzにおいて概ね 3[V/m]の電界に耐えることが出来れば良いそうです。それって余りにも弱い思うのですが...


電波障害が出たときは?

近いうちにまとめますが、基本的な流れは以下の通りです。


参考文献

電波障害に関して 紙で書かれた文献は以下の通りです。

これ以外にも、アマチュア無線局がWebpage上で対策報告を行っている例も多くあります。「電波障害」で検索してみると良いでしょう。


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